FOSSをテーマとした国連の会合

 Nathan Eckenrode氏は来週、ニューヨークの国連本部で、オープンソース・ソフトウェアを支えるテクノロジのデモンストレーションを行うことになっている。彼には、世界平和への道筋を見いだしたいなどという気持ちは毛頭ない。だが、それに1歩でも近付くのなら、それも悪くないと思っている。

 昨年、国連訓練調査研究所(UNITAR:United Nations Institute for Training and Research)と国連貿易開発会議(UNCTAD:United Nations Conference on Trade and Development)が合同で、ある会合を開いた。フリー/オープンソース・ソフトウェア(FOSS)の利用によって、発展途上国の技術発展を促進できないかという可能性について話し合う会合である。Free Software FoundationのRichard Stallman氏、IntelのDanese Cooper氏、IBMのBob Sutor氏などの名だたる面々が繰り広げた話は、出席者たちの興味を誘い、FOSSの実地的な活用についてもっと知りたいとの声が上がった。

 その声に応えて、UNITARの企画による1日セミナーが10月16日に開催されることになった。この会合では、さまざまな環境でのFOSS導入の成功事例がケーススタディとして紹介される。Eckenrode氏はUbuntu New York Local Community Team(NyLoCo)のメンバで、"自称コミュニティ代表"として、グループの集まりを企画したり、最近では、ニューヨーク市の公園でCDを無料配布するなどの活動を行ったりもしている。昨年の会合にもオブザーバーとして参加したことから、LinuxディストリビューションUbuntuの開発元であるCanonicalからある依頼を受けた。IT以外の分野でフリーソフトウェアを使用している企業人を何名か選び出すのを手伝ってほしいとの依頼である。

 Eckenrode氏は、各国の代表がフリーソフトウェアへの探求心をぜひとも深めてもらえるようにしたいと話している。フリーソフトウェアの本質的な価値と無限の可能性を高く評価しているからだ。「初めてLinuxを何か月か試したときに、最初に思ったことの1つが、『ひょっとすると、政府機関や大規模な組織がこれを使えば、コンピュータシステムのセットアップにかかるコストを大幅に抑えられるんじゃないか』ということでした。だから、その動きについて公に話ができる初めての機会に飛び付いたんです。FOSSを利用することは、国際協力、社会福祉、人権問題などの活動を行っている組織にとって、経済的な面以外も含めて、組織全体の大きな力になるものと信じています」。

 Eckenrode氏は、会合への他の参加者を選出する作業も着々と進めている。「以前の会合はオブザーバーとしての参加で、テクノロジのデモンストレーションや、一参加者としていくつかの発言も行いました。前回の会合を見ていた人から、終了後にいただいた声でかなり多かったのが、次回のセミナーでは、事務や業務など、技術系以外の分野で思い切ってFOSSを導入した企業の知識や経験を聞くことができたら、内容がさらに充実するのではないか、というものでした」。

 「CanonicalのJane Silber氏からNyLoCoに話があり、条件に合う企業を見つけるのを手伝ってほしいとの依頼を受けました。その条件とは、企業のメインの業務がIT関連でないこと、プロプライエタリなソリューションからの移行組であること、ニューヨーク近辺の企業であること、そして、その経験を今回の会合で話してもらえること、です。私は、国連の他の会合にも参加したことがあるため、その作業を自ら買って出たのです」。

 自社の業務でのオープンソースソフトウェアの利用について、国連の会合で話してみたいという方は、ぜひとも連絡してほしい、とEckenrode氏は話している。

 通常、国連の会合は非公開で、国連加盟国と登録組織の代表のみが参加できるが、今回の会合は一般公開される。ただし、UNITARのプログラム・コーディネータであるAmy Weesner氏によると、事前登録が必要で、席数には限りがある。「我々は、50~75人程度の参加者を見込んでおり、小さな部屋での開催を希望しました。参加者とゲスト・スピーカーの間でのディスカッションと対話を促すためです」。開催当日には、Webキャストによる生中継のリンクが示され、開催後には、中継のアーカイブがダウンロードできるようになるとのことだ。

Weesner氏によると、昨年はStallman氏やCooper氏などの話が好評を博したものの、「今年は、技術者や支持者ではなく、実際のユーザーの生の声が聞きたいとの声が出席者から上がっています」とのことだ。「今年のスピーカーには、オープンソースソフトウェア開発者はほとんどいません。唯一、Chris DiBona氏が、Googleの事例について話すことになっています」。その他、未確定のゲスト・スピーカーとして、Virgin America、SchoolNet Namibia、Banco do Brasilなどが予定されている。

 Weesner氏は、これまでの会合が成功した理由として、発展途上国へのFOSSの導入について、継続的な議論を促したことを挙げる。「昨年の会合での特に大きな成果の1つが、人々の注目を集め、オープンで活発なディベートを展開できたことです。意識啓蒙のためのイベントは、実際の効果を正確に評価することが、色々な面で難しいのですが、続編の開催を求める声や、現場のユーザによるプレゼンテーションが聞きたいという具体的な要望をいただいたことから考えて、参加者から注目を集めているのだと思います」。

 Eckenrode氏が望むのも、「注目」が長期的に続くことである。「FOSSとUNの双方の動機が、世間の人たちにどれだけ賛同してもらえるか、正直わかりません。でも、もっと多くの人に、それについて考えてもらえたら、と思っています。国際協調に向けて力を注ぐ世界最大の機関は、いかなる面でも、単一の営利企業に与する必要はない、ということは、私にとっては明らかに思えます。――ただ、私の完全な誤解である可能性もないとはいえませんが」。

linux.com 原文